N隊長に悩み相談をされたのですが、
しばらく話を聴いていたら彼女は泣き出したのでした。

N隊長はうつの持病があり、
調子が悪いとかかりつけのクリニックに行って
バランスを取っているのですが、
今回はクリニックに行ってもバランスが取れないようです。

どちらかというと楽天主義（になるようにしている）の私には
「そんなこと、気にすることないじゃん」程度のことなのですが、
本人にしてみれば、深刻な問題。

そして、私が放った言葉の何かが彼女の奥深くに突き刺さったらしく、
彼女は涙してしまったのです。

「ごめん、ごめんね・・・」謝ったのですが、泣きやまず。
そして、私のことを「悪くないから悪くないから。ただ涙が出ただけ」
と繰り返し言って、泣いているくせに私に気を遣うやさしさといじらしさ。

友達なんだからさ、私の前では泣いたっていいんだよ。
というかつらかったらむしろ泣いてしまえ。

あんたと友達になってから、あんたのことは私が守るって決めているんだから。
力になるって決めているんだからさ。
友達ってそんなものでしょう？

そのかわり、私がつらかったら、私のほうが泣くからさ。
あんたもきっと「泣いたほうがいいよ」って言うでしょう？

あの相談のことは、ゆっくり考えていこうよ。
とりあえず一度立ち止まって楽しいことでもしましょう。

今もまだ信じられない。夢なら覚めて欲しい。

午前中に、やけに真面目な顔をしたHさんに呼び止められた。
前に一緒の職場にいたFさんのことについてだったのだが、
その知らせは私を打ちのめすのに十分だった。

「Fさんが先週に脳梗塞で倒れて、T病院に搬送された。
　が、植物状態で、治る見込みが限りなくゼロに近い」

職場で泣いたことなどなかったが、
この知らせはあまりに突然で、悲しくて、
自席に戻ったあともしばらく涙が止まらなかった。

Fさんは私より10歳年上で、まだ40歳にも届かないのに、
どうしてこんな目に遭わなければならないのだろう？

人の悪口を決して言わず、誰からも好かれているFさん。
困っている人がいると真っ先に手を差し伸べるFさん。
Fさんのことを悪く言っている人を私は見たことがない。

私自身、同じ職場にいるとき、何度も仕事上でFさんに助けられた。
私は未熟で何も力になれないのに、私がミスをしても
「そういうことってよくあるよね。俺もよくやってるもん」
と、笑顔で一緒に最後まで付き合ってくれた。

職場の仲良しグループで旅行に行ったとき、
Fさんは大きなスポーツバッグにお酒をいっぱい抱えて来た。
「みんなで飲もう」って、重い思いしながらおくびにも出さずに。
帰り道、余ったお酒のフタのしまりが悪かったらしく、
スポーツバッグの中はお酒の匂いが充満し、
Fさんの着替えも何もかもいいちこで汚染された。
「あー、パンツまでいいちこ漬けになっちゃったよー」
と、周りの笑いを取るFさん。
本当は大変なことなのに、Fさんの笑顔に釣られてつい私も笑ってしまった。

Fさん、もっとみんなで楽しい思い出を増やそうよ。
みんな待ってるんだからさ。

早く元気になるように、
今度からFさんがご飯のお代わりを頼んだら、やめとけって言うから。
Fさんがしょっぱいものを頼んだら止めるから。
脂っこいものも控えめにしろって言うから。
血圧が上がったら、早く病院に行けって言うから。
お酒も控えめにしてって言うから。
まずくなるからそんなに七味としょうゆをかけるなって止めるから。
フライの衣や白米は野菜じゃないよ！っていうツッコミも忘れずにするから。

今まで冗談半分で暴飲暴食を止めていたよ。
心配だったけど、まさかこんなことになるなんて思ってなかったから。
どうして本気で止めなかったんだろう。

Fさん。Fさん。
きっとたいしたことないんだよね。
Hさんが病状を大げさに伝えただけだよね。

お見舞いに行ったら、「たいしたことないよ」っていつものように笑っててよ。
「Hさん、大げさだなあ」って笑い飛ばして。嘘だと言って。

また、飲みに行こうよ。お酒は控えめにしてもらうし、
もちろん、大好きな揚げ物も禁止だから覚悟してね。

Fさん、病気なんかに負けるな。みんなが待ってる。